映像・音声・文字情報制作業はテレビや出版、ウェブメディアを含む広範な業界であり、デジタル化や働き方改革により構造が大きく変化しています。男性は長時間労働を伴う技術系職種が多く、女性は編集や企画などで活躍が広がる一方、育児との両立や管理職進出に課題があります。正社員の割合は減少し、契約社員やフリーランスが増加していますが、報酬や雇用の不安定さが問題です。AIや自動化の進展で効率化が進む中でも、創造力ある人材の価値は依然高く、今後は性別や雇用形態による格差の是正、働き方の多様化が求められています。
映像等制作業の産業構造と全体的な特徴
映像・音声・文字情報制作業は、テレビ・映画・ラジオ・出版・ウェブメディアなど多様な分野を含む情報産業であり、近年ではYouTubeや配信サービスなどのデジタルメディアも含めて急速に領域を拡大しています。一方で、広告収入の減少や出版不況、映像制作のコスト圧縮などにより、業界構造は大きく変化しており、従来の働き方や雇用のあり方が揺らいでいます。
男女別の就労状況と課題
男性の就労傾向と変化
男性は制作・技術・演出などの現場部門に多く従事し、特にディレクターやカメラマンといった長時間労働が前提となる職種が多い傾向にあります。過去には高い給与水準を誇ることもありましたが、現在では自動化や業務の細分化により、平均給与額・労働時間ともに減少傾向です。
女性の就労拡大と壁
女性の参入は増加傾向にあり、編集・校正・企画・デザイン・コンテンツマネジメントなどで活躍の場を広げています。しかし、労働時間の不規則さや育児・介護との両立の難しさから、出産・育児を機に退職するケースも多く、管理職や演出部門への登用が進みにくい現実があります。また、セクハラ・パワハラといった業界特有の人間関係の問題も指摘されています。
雇用形態別の傾向とリスク
正社員の減少と安定性の低下
以前は映像制作会社や出版社などが一定数の正社員を抱えていましたが、経費削減や事業の不安定さから、正社員数は年々減少。特に中高年層の高給与者が早期退職の対象となり、若年層の正規雇用機会も限られています。
契約社員・派遣社員の拡大
制作現場では契約社員や派遣社員の比率が高く、特定の番組・案件ごとの雇用となることが一般的です。プロジェクト終了後の契約更新が不確実なため、収入の安定性に課題があります。
フリーランスの急増と課題
とくに動画編集者、ライター、デザイナーなどではフリーランスの増加が顕著です。案件ベースで柔軟に働ける一方、報酬の不安定さや社会保障制度の未整備、労働時間の長時間化といった問題が深刻です。報酬未払いや契約トラブルなどの労働環境問題も多く、労組や自治体による支援体制の整備が急務とされています。
現状の傾向と今後の展望
現在、映像・音声・文字情報制作業では、効率化・低コスト化と人材多様化の両立が求められています。AI編集・自動文字起こしなどのツール導入が進む一方で、「企画力」「表現力」「編集判断力」などの創造性は依然として人間に求められています。
また、働き方改革により、業界全体でも長時間労働の是正やハラスメント対策が進められつつあります。女性や若者、地方在住者の活躍の場も広がりつつある中、ジェンダー平等・雇用の安定・報酬の公正化を進めるためには、企業と政策の両面での取り組みが不可欠です。
映像等制作業の常用労働者数
映像・音声・文字情報制作業における常用労働者数(5人以上事業所)は、2019年6月に23.5万人でピークを記録しましたが、2025年3月時点では83.6%の水準にまで減少しています。これはコロナ禍による映像制作や出版業の停滞、広告市場の縮小、働き方の変化など複数の要因が影響しています。
特に2020年以降、ロケやスタジオ収録の制限、紙媒体の部数減、Web・配信主体への移行が進んだことにより、従来型の制作体制を維持する企業が減少し、正規雇用者の削減が続きました。また、フリーランスや業務委託への依存が高まったことで、常用雇用としての労働者数が統計上減少している面もあります。
近年では生成AIや自動編集技術の普及により、人手を必要としない工程が増え、特に編集・構成系の職種における常用雇用の圧縮が顕著です。一方、デジタル配信の拡大で新たな需要も生まれており、今後は再編された人材構造のもと、技術適応力のある人材が重視される傾向が強まると考えられます。

月別の現金給与額
映像・音声・文字情報制作業における現金給与額は、2013年12月に110万円でピークを記録しましたが、2025年3月時点では約49.7%にまで減少しています。この大幅な減少は、業界構造の変化や働き方の多様化、制作工程のデジタル化が進んだことに起因しています。
まず、2010年代前半はテレビ・出版・広告業が比較的安定していた時期であり、企画・演出など高収入の中堅~ベテラン層の正社員が多く在籍していました。しかし、その後の動画配信サービスの台頭、広告単価の下落、出版不況の長期化により、制作会社の収益構造が悪化。固定費削減の一環で高額な人件費の見直しが進みました。
また、コロナ禍以降はフリーランスや外注中心の体制への移行が顕著となり、統計に反映される常用男性労働者の高給与層が減少。生成AIや自動編集ツールの普及も、専門的なスキルに対する対価の低下に拍車をかけています。

男女別、雇用別の時給
映像・音声・文字情報制作業における現金給与額の時給は、2023年12月に6,560円/時間と過去最高を記録しましたが、2025年3月時点ではその54.2%の水準にまで減少しています。この急激な変動は、業界の働き方の変化や業務内容の再編成に大きく関係しています。
2023年のピークは、特定のプロジェクトやハイエンド案件に携わる高スキル人材へのスポット的な高額報酬が集中したことが背景にありました。動画配信市場の競争激化や、ライブイベントの復活に伴う需要増などが、高単価の時間給につながったと考えられます。
しかしその後、案件の平準化や制作費の圧縮が進み、高報酬人材の稼働が減少。また、フリーランスや業務委託が主流化したことで、正社員として集計される高時給者が統計上減ったことも、平均時給の低下につながっています。
さらに、生成AIやテンプレート編集ツールの普及により、従来専門性が求められていた編集・構成作業が簡略化され、人手を介する工程が減少。これにより業務単価が低下し、時間当たり報酬も影響を受けたと見られます。

男女別、雇用別の労働時間
実労働時間数の総数は、2014年7月に181時間でピークを記録しましたが、2025年3月時点ではその85.2%の水準にまで減少しています。この動きは、働き方改革や業界構造の変化、さらには技術革新の影響が複合的に作用した結果といえます。
2010年代前半は、テレビ・出版・広告分野を中心に長時間労働が常態化しており、とりわけ男性中心の制作現場では、プロジェクトの多忙期における過重労働が顕著でした。企画・取材・編集といった工程において手作業が多く、深夜対応や休日出勤も珍しくありませんでした。
しかし、2019年以降は「働き方改革関連法」の施行により、労働時間の上限規制が強化され、制作会社でも労務管理の見直しが進行。また、コロナ禍を契機にテレワークや業務委託が拡大し、物理的な拘束時間が縮小される傾向となりました。
さらに、AI編集ツールや自動文字起こしなどの導入が進み、従来は時間を要した作業の効率化が図られたことで、総労働時間の圧縮が進んでいます。一方で、報酬体系の見直しや成果主義の強まりにより、少ない労働時間での生産性向上が求められる場面も増えました。


コメント