織物・衣服・身の回り品小売業は、女性労働者が多く従事する業界であり、パートやアルバイトなどの非正規雇用が主流です。女性は短時間勤務が多く、昇進や賃金面での課題を抱えています。一方、男性労働者は正社員や管理職として働く傾向がありましたが、近年はポストの減少や待遇の伸び悩みにより業界離れが進んでいます。全体として、正規雇用は減少し、非正規が中心となる中で、雇用の安定性や賃金格差が問題となっています。今後は、柔軟な働き方の導入、スキル評価制度の整備、EC対応といった業界構造の改革が求められており、多様な人材の活用が不可欠です。
衣服小売業の産業構造と全体的な特徴
織物・衣服・身の回り品小売業は、ファッション関連の商品を主に扱う業態であり、全国の百貨店、量販店、専門店、さらには個人経営のブティックなどが含まれます。かつては商店街の中核を成していた業種ですが、近年はインターネット通販(EC)の拡大、大型ショッピングモールの集客力、価格競争の激化などにより、構造的な転換を迫られています。
女性労働者の現状と課題
この業界は女性労働者の比率が非常に高いことが特徴です。販売職や接客業務は、かねてより「女性向き」とされ、実際に多くの女性が就労しています。特に主婦層や子育て中の女性が、短時間勤務やパートタイムで働く場として選びやすい一方、昇進機会やキャリア形成が限られているという課題があります。
さらに、非正規雇用であることが多く、賃金が低水準にとどまりやすい傾向にあり、家計補助的な働き方になりがちです。育児や介護などとの両立のため、労働時間や勤務日の制限も多く、業務にフルコミットすることが困難なケースも少なくありません。
男性労働者の特徴と課題
男性労働者は、以前は管理職や正社員として雇用されることが多かったものの、近年ではその比率が減少傾向にあります。販売業務が「女性中心」のイメージを持たれることや、待遇面の低迷、将来性への不安から、若年男性の業界離れが進んでいます。
また、男性の場合、企業内でのキャリアアップが女性よりも期待される場面が多いものの、人件費削減の影響で管理職ポスト自体が減少し、結果として給与や労働意欲に反映されにくい状況もあります。
雇用形態の多様化とその影響
業界全体では、パートタイム・アルバイトの比率が非常に高くなっており、正規雇用は縮小傾向にあります。これは、売上の不安定化やコスト削減圧力による影響が大きいです。非正規雇用者はフレキシブルな勤務形態を求める一方で、社会保険や雇用保障の欠如、賃金水準の低さなどが問題とされています。
一方、少数ながらも、ファッションアドバイザーやマネージャーといった専門性の高い正社員ポジションでは、男女を問わず高いスキルと長期的なキャリア形成が求められます。こうした専門職への評価制度の整備が、今後の鍵となるでしょう。
今後の展望と改善への課題
今後の課題は、安定した雇用形態の確保、男女ともに活躍できるキャリアパスの明確化、労働環境の改善です。特に、EC化が進む中での接客のあり方、デジタルスキルの習得、柔軟な働き方への対応が重要になります。
さらに、少子高齢化に伴い、販売職においても労働力確保が難しくなっており、シニア層の活用や外国人労働者の受け入れなど、多様な人材活用も求められています。
衣服小売業の常用労働者数
常用労働者数について、2012年から2025年の間での特徴や傾向を考察すると、業界全体の労働者数は2017年11月にピークを迎え、その後は減少傾向にあります。ピーク時に比べて、現在の労働者数は78.2%となっており、この数値は業界の構造変化や経済環境の影響を反映しています。
特に注目すべき点は、消費者の購買行動の変化が業界に与えた影響です。オンライン販売の拡大や大手チェーン店の台頭により、従来の小売店舗の需要が減少しました。また、消費者の価値観の変化に伴い、価格競争が激化し、労働者の雇用条件にも影響を及ぼしました。これにより、小売業で働く人々の安定した雇用環境が一部に揺らぎを見せています。
さらに、技術革新や自動化の導入が進み、業務の効率化が図られる一方で、一部の職種や地域では雇用の不確実性が増しています。特に地方の小規模な小売業者は、大手チェーンとの競争や地域経済の停滞が課題となっており、労働者の求職状況にも影響を及ぼしています。

月別の現金給与額
現金給与額の総額は、2017年12月に56.9万円でピークを迎えた後、減少傾向が続いており、2025年3月時点ではその水準の約50.1%にまで落ち込んでいます。この傾向は、同業界における経済環境や雇用構造の変化を象徴するものといえます。
まず、消費者の節約志向やファストファッションの浸透、EC(電子商取引)の普及などにより、従来型の小売業は売上が伸び悩み、利益の圧縮が続きました。これにより企業は人件費の抑制に動き、特に給与水準が高くなりやすい男性正社員の待遇に影響が及んだと考えられます。
また、労働者の構成変化も見逃せません。業界全体でパートやアルバイトなど非正規雇用の比率が高まり、正規雇用の男性労働者数が減少したことが、現金給与総額の縮小につながっています。給与水準の低下に加え、労働時間の短縮や業務の簡素化も影響を与えたと見られます。

男女別、雇用別の時給
現金給与額の時給は、2023年12月に3,760円という過去最高を記録しましたが、2025年3月時点ではその57.5%にまで減少しています。この動向は、業界の労働環境や雇用形態の変化、経済構造の転換を反映しています。
まず、2023年の時給急上昇は、一時的な人手不足や最低賃金の引き上げ、物価上昇による名目賃金調整の影響が大きかったと考えられます。また、年末商戦など季節要因で高時給の短期契約が増えたことも一因と見られます。
しかしその後、2025年にかけて時給水準が急速に落ち込んだ背景には、業界全体の売上低迷や雇用の質的変化が挙げられます。高時給のフルタイム男性社員が減り、代わって低賃金のパート・アルバイトへの依存が強まったことで、平均時給が押し下げられました。また、業界再編や中小企業の廃業により、高賃金のポストが失われたことも影響しています。

男女別、雇用別の労働時間
一般労働者の実労働時間数は、2013年7月に193時間というピークを記録しましたが、2025年3月時点ではその81.6%にまで減少しています。この変化は、労働環境や業界構造、働き方改革の影響を反映したものと考えられます。
まず、労働時間の減少には、政府による「働き方改革」や労働基準法改正による残業規制の強化が大きく影響しています。小売業界でも、長時間労働の是正と従業員の健康管理が重視されるようになり、業務の効率化やシフト制の導入が進みました。その結果、実労働時間は徐々に短縮されていきました。
また、業界全体の売上や店舗数の減少も背景にあります。EC(電子商取引)の台頭により、実店舗の来客数が減少し、業務量そのものが縮小したため、労働時間も抑制される傾向にあります。これに伴い、フルタイムの勤務形態よりも、短時間勤務のパートタイマーやアルバイトへの依存度が高まったことも、労働時間の平均を引き下げる要因となっています。


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