障害者福祉事業は、生活支援や就労支援など多様なサービスを提供し、女性労働者が多数を占めています。女性は家庭との両立を重視し非正規勤務が多い一方、男性は管理職や就労支援に多く従事しています。正規職員は安定雇用ながら業務負担が重く、非正規は処遇やキャリア支援に課題があります。処遇改善政策により一部で条件が改善されつつあるものの、依然として低賃金や人手不足が深刻です。男女差や雇用形態の違いを考慮した多様な働き方の推進と、持続可能な人材確保の仕組みづくりが今後の課題となっています。
障害者福祉事業の概要と重要性
障害者福祉事業は、障害を持つ人々が地域社会の中で自立した生活を送るために必要不可欠な支援を提供する分野です。サービスには、生活介護、就労支援、居宅介護、相談支援などが含まれ、医療や介護とは異なる福祉的視点に基づいて展開されています。高齢化の進行や発達障害への理解の進展により、対象者や支援ニーズが多様化しており、人材の役割は今後ますます重要となっています。
男女別の労働力の特徴と課題
女性労働者の現状と課題
障害者福祉事業では女性労働者が全体の多数を占め、特に生活支援員や介助職など現場業務に多く従事しています。女性は家庭と仕事の両立を求める傾向が強く、パートタイム勤務や短時間正社員制度の活用が進んでいます。しかし、正職員への登用や管理職比率では依然として男女格差が存在しており、キャリア形成の面で課題があります。
男性労働者の現状と課題
男性は管理職や就労支援、相談支援の分野に比較的多く配置されていますが、現場の介助業務における絶対数は女性に比べて少数です。力仕事や夜勤対応においては男性が重宝される傾向にある一方で、福祉業界全体として男性の参入を促す取り組みが必要とされています。
雇用形態別の傾向と問題点
正規雇用の特徴
正規職員は支援計画の立案やチームのリーダー的役割を担い、施設運営における中核的存在です。安定した雇用環境や社会保険の整備などがある一方、長時間労働や責任の重さから離職リスクも高くなりがちです。特に人材不足により、一人当たりの業務負担が増加している傾向があります。
非正規雇用の特徴
パート・アルバイト・契約職員などの非正規雇用者は、福祉現場を支える重要な戦力です。柔軟な働き方が可能である一方、賃金水準や処遇が低く抑えられがちで、職務内容とのバランスに課題があります。また、研修やキャリアアップの機会が限定的であるため、長期定着に結びつかないケースも多く見られます。
障害者福祉事業の常用労働者数
常用労働者数は、2012年から2025年にかけて一貫して増加傾向を示し、2025年2月には「5人以上(合計)」の事業所で過去最多となる51.1万人を記録しました。これは、障害者雇用促進法の強化や、福祉サービス需要の高まり、地域共生社会の実現に向けた政策的後押しなどが背景にあります。特に2010年代後半以降は、就労支援事業所や生活介護施設など多様な福祉事業の拡充に伴い、安定雇用が進展しました。
一方、2025年3月時点ではピーク比99.1%となり、やや微減しています。このわずかな減少は、事業所の統廃合や人手不足による採用抑制の影響と見られますが、全体としては高水準を維持しています。障害者福祉の分野は、少子高齢化に伴う社会的ニーズの高まりと共に、今後も一定の人材需要が見込まれます。こうした状況から、労働者数の推移は安定成長と供給調整のバランスを反映しており、持続的な制度支援と人材育成の重要性が浮き彫りとなっています。

月別の現金給与額
現金給与額の総額は、2012年以降、緩やかな上昇傾向を見せながら推移し、2023年12月には「5人以上(一般労働者)」において過去最高の60.2万円を記録しました。この背景には、福祉職の処遇改善加算制度や人材確保対策の一環として行われた賃上げ施策が影響しています。特に2020年代に入ってからは、慢性的な人手不足への対応や専門性の高いケア業務の評価向上により、給与水準の底上げが図られてきました。
しかし、2025年3月時点ではピーク時の55.5%にとどまり、大きく減少しています。この急激な落ち込みには、物価高騰や補助制度の一部見直し、事業所経営の厳格化といった複数の要因が絡んでいると考えられます。また、一般労働者の配置が非正規中心にシフトしたことや、賞与削減などの影響も給与総額の押し下げ要因となっています。
全体として、処遇改善の努力が一時的な成果を上げたものの、持続的な賃金水準の維持には制度的・財政的な支えが不可欠であることが示されました。今後は、福祉人材の流出を防ぐためにも、継続的な支援と安定的な給与基盤の構築が求められます。

男女別、雇用別の時給
現金給与額の時給は、2012年以降、緩やかな上昇を続け、2023年12月には過去最高となる1時間あたり3,880円を記録しました。このピークには、福祉職の専門性向上や処遇改善加算の拡充、慢性的な人手不足による賃上げ競争の影響が大きく関与しています。特に高度なケア技術や利用者対応が求められる現場では、経験や資格を持つ労働者に対して高い時給が設定される傾向が強まりました。
しかし、2025年3月時点では、ピーク比55.6%と急激に低下しています。この大幅な下落には複数の要因が考えられます。まず、物価上昇に伴う経営コストの増加により、事業所が人件費の抑制を余儀なくされたこと。加えて、正規職員から非正規・パート職員への雇用形態の移行が進んだことが、平均時給を押し下げています。また、一部の処遇改善制度が縮小または適用対象外となった影響も見逃せません。
これまでの傾向を見ると、時給水準の上昇は一時的で、制度的・財政的支援の継続性が不十分な場合には急速に下落することが明らかです。障害者福祉の質を維持・向上させるためには、安定的な処遇と長期的な人材確保の仕組み作りが不可欠です。

男女別、雇用別の労働時間
実労働時間数は、2012年以降、全体として増加傾向にあり、2024年7月には過去最大の169時間(5人以上の事業所、一般労働者)を記録しました。この背景には、福祉需要の拡大やサービス提供時間の延長、人材不足に伴う一人当たりの業務負担の増加が影響しています。特に、高齢障害者の増加や多様な支援ニーズへの対応により、現場では長時間勤務が常態化する傾向が見られました。
しかし、2025年3月時点ではピーク比91.7%となり、若干の減少が確認されます。この減少は、長時間労働の是正に向けた働き方改革や、職員の健康管理に対する配慮が進んだ結果と考えられます。また、労務管理の強化やICT導入による業務効率化が一部で進み、労働時間の抑制に寄与しています。加えて、処遇改善に伴い非正規から正規への転換や、複数人による分担体制の整備も、労働時間の平準化に影響を与えた可能性があります。
全体として、障害者福祉事業の現場では長時間労働に支えられた体制から、持続可能な勤務体系への移行が模索されていることがうかがえます。今後は、サービスの質と職員の労働環境の両立に向けた取り組みが一層重要となるでしょう。


コメント