日本の電気業界は伝統的に男性中心の労働力構成ですが、近年は女性の参入が徐々に進み、多様性推進が進展しています。一方、正規雇用の割合は減少し、非正規雇用が増加しているため、待遇格差やキャリア形成の課題が浮上しています。若年層の減少に伴い技術継承が難しくなる一方、高齢労働者の経験活用が進んでいます。業界全体では働き方改革や自動化の影響で労働時間短縮が進みつつも、人材確保と技術伝承の両立が求められています。今後は女性や若者の参入促進、非正規雇用の待遇改善、研修強化など、多面的な取り組みが必要とされます。
電気業の産業構造と全体的な特徴
日本の電気業は、エネルギー供給の基幹を担う産業であり、発電・送配電・設備工事・電気機器製造など多岐にわたる業務を含んでいます。労働力構成においては、長年にわたり男性中心の現場作業が主流でしたが、近年では労働力不足や多様性推進の流れを受けて、男女や雇用形態における構造の変化が進んでいます。以下では、性別・雇用別の観点から、課題と現状を詳しく見ていきます。
男女別の労働力構成と課題
男性中心の構造
電気業は長らく、体力を要する現場作業や設備点検業務を中心に構成されており、男性労働者が多数を占めています。特に発電・送電などのインフラ分野では、男性比率が非常に高い状況が続いています。
女性参入の障壁と最近の変化
女性の進出が遅れている要因としては、職場の物理的環境(重作業、深夜勤務)や職種の限定(事務職中心)が挙げられます。また、キャリアパスが限られていることも問題でした。しかし最近では、設計・監理業務や再生可能エネルギー分野で女性技術者が増加傾向にあり、ダイバーシティを重視する企業では女性管理職の登用も進められています。
雇用形態別の現状と問題点
正規雇用の縮小と非正規の増加
電気業でも例外なく、正規雇用の割合が減少傾向にあり、契約社員・派遣社員などの非正規雇用が拡大しています。特に設備保守や受付・監視などの周辺業務において、外部委託や派遣労働が多くなっています。
雇用の安定性と格差の問題
非正規労働者は給与水準や福利厚生、研修機会において格差を抱えることが多く、技能の蓄積や長期的なキャリア形成が難しいという課題があります。業界全体としては慢性的な人材不足が続いているものの、待遇の違いが離職率の高さにも影響を与えているとされています。
第3章:若年層・高齢層の動向と働き方の変化
若年層の減少と後継者不足
電気業界では若年層の新規就労者が少なく、特に現場作業における技術継承が難航しています。理工系離れや「3K(きつい・汚い・危険)」イメージが若者の参入を妨げており、今後の産業維持に危機感が高まっています。
高齢者の就業継続と熟練技術
一方で、高齢技術者の豊富な経験は業界にとって貴重な資源であり、定年延長や再雇用によってベテラン人材の活用が進んでいます。ただし、作業負荷や安全面の配慮が求められ、労働環境の改善が不可欠です。
電気業の常用労働者数
2012年1月から2025年3月までの調査によると、日本の電気業における常用労働者数は、2012年5月に14.7万人でピークを迎えましたが、2025年3月時点ではその91.4%となる13.4万人へと減少しています。約13年間で9%弱の減少であり、急激ではないものの、緩やかな縮小傾向が続いていることがわかります。
この動向の背景には、複数の要因が重なっています。まず、電力自由化やエネルギー政策の転換により、業界全体が再編を迫られ、効率化やコスト削減が進められたことが挙げられます。また、再生可能エネルギーやスマートグリッドの導入が進み、従来型の電気事業に必要とされていた人員が徐々に減少したと考えられます。
さらに、業務の自動化・デジタル化も影響を与えました。IoTやAIなどの技術導入により、現場での作業が効率化され、少人数でも対応可能な体制が整ってきたことが、雇用の抑制につながっています。加えて、労働力人口の減少や若年層の理工系離れなど、人的資源の確保が難しくなっている現状も無視できません。

月別の現金給与額
電気業における現金給与額は、2021年6月に139万円でピークを記録しましたが、2025年3月にはその42.5%にあたる約59万円まで大きく減少しています。これは短期間での急激な減少であり、電気業界の給与構造における大きな変化を示唆しています。
この背景にはいくつかの要因が考えられます。まず、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2021年頃には一時的な特別手当や残業代の増加などで給与が急上昇した可能性があり、これがピークの要因となっていると見られます。その後、経済活動の正常化とともに一時的な手当が廃止され、給与が落ち着いたと推測されます。
また、電気業界全体で進む業務の効率化やアウトソーシングの拡大により、高賃金の正社員ではなく、より低賃金の契約社員や派遣社員の比率が増加している可能性もあります。これにより、全体の平均給与額が押し下げられたと考えられます。

男女別、雇用別の時給
電気業における現金給与額の時給は、2020年12月に8,600円/時間でピークを迎えましたが、2025年3月にはその43.2%、約3,716円/時間にまで大きく低下しています。この大幅な減少は、単なる景気変動だけでなく、業界の構造変化や雇用形態の多様化など、複数の要因が重なった結果といえます。
まず、2020年12月のピークは、コロナ禍の影響により労働時間が一時的に減少する一方、基本給や手当が維持・増加したことで、時間当たりの給与が実質的に跳ね上がった可能性があります。このような短期的な特殊要因による上昇は、翌年以降の通常化とともに解消され、平均時給は大きく下落しました。
次に、業務の効率化や自動化の進展により、高度な技術を持つ少数精鋭で対応可能な体制へと移行してきたことも影響しています。その結果、高賃金の熟練労働者が減少し、全体の平均時給が低下する傾向が強まりました。

男女別、雇用別の労働時間
実労働時間数(従業員5人以上・男性計)は、2014年10月に182時間でピークを記録しましたが、2025年3月時点ではその87.2%にあたる約159時間まで減少しています。約10年間で約23時間の減少は、労働環境や業務の進め方における大きな変化を反映しています。
まず注目すべきは、長時間労働の是正に向けた政策や企業の取り組みです。政府による「働き方改革」や労働基準監督の強化により、電気業界でも労働時間の抑制が進められ、特に残業の削減が重視されてきました。また、労働者の健康意識の高まりやワークライフバランスの重視も、労働時間の短縮に寄与しています。
次に、業務の効率化やデジタル化の影響も大きいです。ITシステムや自動制御技術の導入により、従来よりも短時間で業務が完結するようになり、必要な実労働時間が減少する傾向が見られます。特に電力設備の遠隔監視やデータ管理の自動化が進み、現場での作業時間が効率化されました。


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